石井ゆかりの幸福論【7】「パートナーシップ」と幸福。

石井ゆかりの幸福論【7】「パートナーシップ」と幸福。

「幸せって何だろう?」──その答えは人の数だけあるはずです。石井ゆかりさんが綴る『幸福論』で、日常の体験や思いを手がかりに、幸せのかたちをいっしょに探していきましょう。
星占いの「12ハウス」になぞらえて執筆されている本コラム。今回は第7ハウスについてです。

※このコラムは、2019年〜2021年にかけて執筆された連載に加筆・修正を加えてお届けしています。

「パートナーシップ」と幸福。

12ハウスの担当分野
「私は結婚できますか」。
占いの場で、もっともよく投げかけられる問いです。
更に言えば、このバリエーションはほんとうに多岐にわたります。
「いつ結婚できますか」「あの人と結婚できますか」は当然ながら、最近はそれ以上に、こんな問いかけが目立ちます。

「私は結婚に向いていないのですが、結婚すべきなのでしょうか」
「私は結婚とは縁がありませんし、諦めていますが、このまま仕事で生きていくだけなのでしょうか」
「恋愛をしたいとは思わないのですが、この先、一人なのも寂しい気がします」
「結婚や恋愛に全く興味が持てません、これは問題がありますか。」

これらはみんな、結婚やパートナーシップと「自分」とのあいだに、ある距離を置いた問いかけです。
特に「私は結婚に向いていない」「興味が持てない」という問いかけは、意味深です。
というのも、もし本当に結婚に向いていなくて興味がないなら、なぜその「占いへの問いかけ」がなされたのでしょうか。

もちろん、「周囲から結婚を勧められるが興味が持てない、どうしたらよいか?」という悩みもあるでしょう。
でも、この悩みは、決して「周囲を黙らせるにはどうすればよいか」ではないのです。
「周囲がこんなに言うのに、自分が結婚に興味を持たないのは、自分が間違っているのだろうか」という悩みになってしまうのです。
装飾
世の中には生まれつき、恋愛感情を持たない人もいます。
また、恋の感情はあっても、傷つくことを恐れて誰も愛そうとしない人もいます。その判断を責めることは、誰にもできません。
一方、世の中には「恋愛感情」以外のもので結びついているパートナーシップもたくさんあります。
たとえば、子供を持つために結婚する、子供を育てるためにパートナーシップを維持している、という人は、たくさんいます。

「恋愛をしていなければ結婚できない」という風潮は、歴史的に見れば、ごく最近のものです。むしろ一昔前は、お見合い結婚が「ふつう」でした。恋愛して結婚をすることは、ちょっと「変わったこと」だったのです。
一昔前の「夫婦」は、恋愛感情ではないもので結びつくことが前提だったのです。それは、信頼や尊敬、そして、生活を営む上での役割分担の了承、さらに「家業」や「家」を運営し継承していくという責任感、現代で言えばビジネスパートナー的な感覚も強かったはずです。

十人十色の「パートナー」

自分とぴったり合った人間、一緒にいて限りなく楽しい人間、自分を全面的に肯定し、味方になってくれる人間。決して自分の邪魔をせず、迷惑もかけず、いつでも受け入れてくれる人間。その人の周りの人間関係が自分を傷つけず、経済的にも負担をかけてこない人間、そしてなにより、自分も好意を持てる人間。
もしそんな完全な相手がいたなら、ほとんどの人が「一緒に暮らしてみたい」「一人でいるよりずっといい」と思うのではないかと思います。

もちろん、現実問題、そううまくは行きません。「好き」と思う気持ちさえ、時間が経てば変わってしまうのが人間です。好きで結婚したはずなのに、いつのまにか長いことパートナーを毛嫌いして生きている人もいるほどです。
「恋愛感情」はたいてい、4年程度で消えてしまうものだ、と言われています。

装飾
「パートナー」という言葉自体が何を表しているのか、それは人によって、千差万別です。
「恋愛をして結婚をする」ということと、「人生を共に生きるパートナーを得る」ということは、部分集合的にしか重ならないのではないか、という気がします。

結婚という形をとらずにパートナーシップを結ぶ人たちも、最近は増えているようです。また、結婚していても一緒には暮らさない、というカップルもあります。
一人で生きることは古来、決しておかしなことでも、めずらしいことでもありません。
さらに、「性」は2つだけではない、ということは、昨今常識として浸透しつつあります。

こう考えていくと、「パートナーを得る」「パートナーと生きる」ということは、世の中の「結婚」という形式に自分を当てはめていくようなこととは、大きく違うのだと思います。
世の中で一般的に言われる「結婚」という枠組みに、むりやり自分を当てはめようとすることは、必要ないはずなのです。
親や親族が「結婚しろ」「なぜ早く結婚して子供を持たないのだ」と急かすとき、彼らは「世間的な結婚の枠組み」のイメージしか、抱いていません。
でも、その枠組みに自分をムリヤリ押し込むようなことは、おかしな話です。
「自分」は、かれらのものではないからです。
自分は自分のものだからです。

もちろん、社会的責任を思って「結婚」に身を投じる人もいるかもしれません。
それは、その人自身の価値観で、尊重されるべきです。
ただ、それを他人に強要したり、その価値観が「善」で、他は悪であると主張したりすることは、間違っているはずです。

「私は結婚に向いていない」「結婚に興味がない」と言いつつ占いを求める人の言う「結婚」は、「世間的に言う結婚」のことだろうと思います。
「世の中一般にイメージされるような『結婚』」「保険やハウスメーカーのCMに出てくるような、ステレオタイプの『結婚』とその役割概念」に、「興味がない」のでしょう。
「自分に何らかの形で『合う』とおもえる誰かと、人生の一部を共有して、助け合って生きていく」ということなら、もしかしたら、「興味がある」と感じられるかもしれません。
心の片隅にそうした関心、あるいは仮説があるからこそ、こうしたご質問を寄せられたのではないかと思うのです。

もちろん、全ての方がそうだというわけではないと思います。
ご相談にはそれぞれ、共通する部分がある一方で、まったくだれのものともかさならない、とても深いものが含まれているからです。
装飾
たとえば「同性愛でなくとも同性で結婚できる世の中になるべきだ」という考え方があります。これは、結婚制度というものを考える上で、とても大事な発想だと思います。
パートナーシップとは、ただ、人が人と、協力し合って生きていくことです。
そのことに、部外者が何の意見をはさめるものでしょうか。
パートナーシップは、「創造」されねばならないのです。
どこかにあるテンプレートに、無自覚に自分を填め込むような「結婚」は、危険なのです。
サイズも見ず、試着もせずに、かたい革靴を買うようなものです。

「缶詰をあける」体験

パートナーを得ても、ちっとも幸福になれない人もいます。
いわゆる「モラハラ」や「DV」「ワンオペ育児」など、パートナーによって不幸になる人も、たくさんいます。
その一方で、パートナーと生きていることがなにより幸福だと感じる人もいます。
この違いは、どこにあるのでしょうか。

パートナーシップを結ぶことで幸福になるには、おそらく、いくつかの条件が必要なのだろうと思います。そして、その条件もまた、全ての人に当てはまるというものではないでしょう。「誰にでもぴったり合う靴」が存在しないのと同じです。

ただ、こんなことを私は想定します。
パートナーシップによって幸福になる条件のひとつ、それは、お互いの関係の中で、「缶詰が開く」体験があることです。

人の心の中には、固く閉じている場所がたくさんあります。
でも、閉じた場所の中に格納されたものは、そのままでは成長しないのです。
ナカミが腐敗して膨張し、どうにもならなくなることもあります。
そして、その「閉ざされた場所」「缶詰」を、一人で開けることは、なかなか難しいのです。

ある人と出会い、生きる時間を共有する中で、その「缶詰」のようなものが開きます。
中にはそもそも「隠しておきたかったもの」「触れたくなかったもの」が入っているので、ちょっと困った事態になる場合も、よくあります。
自分一人では状況を収拾できず、出会えたその人に手をかしてもらうことになります。
そのとき、幸福に向かうためのパートナーシップが結ばれます。

装飾
白雪姫のガラスの棺が壊れる瞬間、鉢かづき姫のかぶった鉢が壊れる瞬間、シンデレラの片方の靴が脱げてしまう瞬間などは、まさに、「缶詰が開く」瞬間です。これらは初潮や破瓜のメタファーだと解釈されることも多いようです。でも、それ以外にも「バランスが崩れる」「缶詰がふくれてはじける」瞬間は、人生の中でたくさんあります。

私たちが成長を重ね、他者と巡り会ったとき、なんらかのきっかけで、心の中で閉ざされていた部分が開かれます。それは一見、トラブルのように見えることもしばしばです。ですがその瞬間にこそ、奇跡のような「関わり」が生じ、新しい人格と関係性が生まれ出すのです。こうした体験は、人生の中でたった一度のことではなく、何度も繰り返されていくことなのではないでしょうか。

「美女と野獣」で野獣の顔から王子の顔に変わる瞬間や、おやゆび姫が死にそうなツバメを介抱するくだりなどは、「一人では収拾できなくなった状況を、助けてもらう」体験に重なります。内なる弱さや醜さが現れ出ても、それに向き合ってくれる「誰か」が現れたとき、私たちは相手を初めて、「もう一つの自分の生命」として認識し始めるものなのかもしれません。

そんなことは怖くて出来ない、と思われるでしょうか。
でも、時々「心の機が熟す」と、そんなことが自然に起こる場合も、少なくないようです。

(2020年11月)

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石井ゆかり
いしいゆかり

ライター。星占いの記事やエッセイなどを執筆。「12星座シリーズ」(WAVE出版)は120万部を超えるベストセラーに。「愛する人に。」(幻冬舎コミックス)、「夢を読む」(白泉社)等、著書多数。累計発行部数は520万部を超える。

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