石井ゆかりの幸福論【5】愛と創造について。

石井ゆかりの幸福論【5】愛と創造について。

「幸せって何だろう?」──その答えは人の数だけあるはずです。石井ゆかりさんが綴る『幸福論』で、日常の体験や思いを手がかりに、幸せのかたちをいっしょに探していきましょう。
星占いの「12ハウス」になぞらえて執筆されている本コラム。今回は第5ハウスについてです。

※このコラムは、2019年〜2021年にかけて執筆された連載に加筆・修正を加えてお届けしています。

愛と創造について。

星占いの「ハウス」に添ってお題を決めて書いている本稿ですが、今回は「愛と創造」がテーマです。

12ハウスの担当分野
星占いで「第5ハウス」と言えば恋愛のハウス、ということになっています。
恋愛は占いの場で、もっともよく話題にのぼるテーマです。
多くの人が恋に悩み、愛に傷ついて、占いに手を伸ばします。

一般に、人が「占いをしたい」と思うのは、「自分の力ではどうにもならないと思えること」に直面した時だろうと思います。
「自分の力ではどうにもならないこと」、その最たるものが恋愛です。
意中の心を自分の思い通りにできたら、どんなにいいでしょうか。
でも、そうはなりません。
そうはならないからこそ、恋愛が素晴らしい、と言うこともできるかもしれません。

もし、自分の意思で他人の気持ちを自由自在に変えられるならば、「人から愛される」ことは、そんなに貴重なことだとは思えないはずです。
自分の思い通りにはならないはずの「他者の心」が、自分という存在を強く求めてくれる、というところに、愛の神秘、愛の奇跡的な感動が生まれるのだと思います。

恋の前では、人はどこまでも無防備です。
とても傷つきやすくなりますし、感情は揺れうごき、他のことが手に着かないくらい、感情に支配されてしまうこともあります。
こうしたとき、「占いをしたい!」という気持ちになるのは、当たり前です。
装飾
星占いで「恋愛を見てください」と言われたら、まず第5ハウスの状態を見るはずです(人によりますが)。
でも、実は他にもいくつか、見るべきところがあります。
まず第7ハウス、次に金星、火星、そして第8ハウスや第11ハウスも見たりします。さらに月と太陽、土星、などと、まあ複合的にどんどん見てゆくわけですが、特にこの5・7・8・11の4つのハウスは、それぞれ担当が分かれています。
第5ハウスは「与える愛」、第7ハウスは「パートナーシップ、結婚」、第8ハウスは「性愛」、第11ハウスは「受け取る愛」をそれぞれ、検討できる場所なのです。

第5ハウスが「愛と創造の部屋」であることが、これですこし、ピンときます。
愛は愛でも、第5ハウスの愛は「愛する」愛なのです。
みずから生み出す愛、行動する愛、注ぐ愛が、第5ハウスの愛です。

「愛するだけが愛でしょうか? 愛されるのを望むのは、ワガママなのでしょうか?」と時々、質問されます。
「愛されたい」という願いは、本当に多くの人が胸に抱いている、切実な願いです。
ワガママ、ということではないと思います。
でも、これだけ多くの人が「愛されたい」と思っているならば、裏を返せば「愛することのできる人」こそが求められている存在だとも言えます。
愛情深い人、愛することのできる人を、みんなが待ち望んでいるのです。
ならば、「愛することができる人」こそが、「必要とされる人」なのではないでしょうか。

占いの場で問われるのは、「私はあの人に愛されますか?」「私を愛してくれる人が現れますか?」が圧倒的に多いように思います。
とにかく「自分の思い通りにならない・コントロールできない」のは、自分の心ではなく、自分以外の他人の心のほうなので、そういう問いが前に来ます。

でも、ほんとうにそうでしょうか。

誰かを好きになる、愛する、ということは、どんなに努力しても、なかなか、できることではありません。
もとい「頑張って好きになる」「相手のいいところを見つけようとする」ことは、できます。
でも、「辛抱してつきあってみたら、相手がいい人だということは解ったし、仲良くもなったけれど、でもどうしても、愛情を持つことができない」というのは、よくあることです。

こう考えると、「頑張ってもできない」「コントロールできない」のは、本当は「自ら愛すること」のほうなのかもしれません。
装飾
何かを好きになること、夢中になること、愛すること。
これは、とても大変なことです。

第5ハウスのテーマには、「恋愛」の他に、「趣味、遊び、子ども」などがあります。どれも、他人に命令されてそれに従って実行するようなことではありません。自分の内側に生まれた思いに従って動いていくような活動です。
でも、趣味を続けることも、楽しく遊ぶことも、子どもを産み育てることも、どれだけたいへんなことでしょうか!

「好き好んで」やる苦労

第三者からは「好きでやっているんでしょう」「あなたが自分で始めたのでしょう」と言われます。
たしかにそうです。
でも、趣味の活動でも辛い訓練があります。
遊びに行くにも苦労して企画を考え、計画を立て、楽しむために色々な努力をしなければなりません。
子どもを産み育てることについては、もはや、言うまでもありません。
深い愛と幸福、そこに表裏一体で、限りない苦労や苦悩が伴います。

確かに、自分で選んではじめたことなのです。
「好き好んで」やっているのです。
好き好んで、自ら選んでやっていることだからこそ、逃げられないのです。
誰のせいにもできないのです。
もとい、やめてしまうこともできるかもしれません。
でも、内なる声が囁くのです。
「ほんとうに投げ出してしまっていいの?」と、もう一人の自分に聞かれるのです。

好きなことができる人生は、幸福です。
愛するものがあることは、幸福です。
楽しむこと、情熱を注ぐこと、自分で選んだことを苦労してやりとげることは、幸福なことだと思います。
芸術家が真に自分の理想に叶う作品を作り上げるまで、どれだけの苦しみを味わうものか、当人以外にはだれにもわかりません。
その恋がどれだけ辛く苦しく、どれだけ幸福なものなのかは、恋をしたその人以外には誰もわからないのです。

装飾
「幸福」といえば、甘く優しくたのしいもの、というイメージがわきます。
でも、実際は、何か苦しみを乗り越えたり、努力して汗をかいたり、難しい問題を解決したりしたときこそ、本物の幸福を感じることができるのではないでしょうか。
簡単に、手軽に手に入ったものは、人を本当には幸福にしてくれないものなのではないかと思うのです。

第5ハウスのテーマ「愛と創造」は、自分から選び取った苦労と、そのかなたにある本物の喜びを指し示しているようにも思われます。

「自分を超えていく」

自分では思い通りにならない他人の心、人生の展開、広いこの世界。
そこに自分から何かを掴もうと必死に飛び込んで、なにかに出会い、「自分を超えるなにか」をつかむことこそが、愛や創造というテーマなのではないかと思います。
愛と創造は、「自分」のちいさな枠組みを超えて、限りなく広い外界と自分を結びつけるような営為なのです。

多くのアーティストが、自分の最高傑作と言えるものを前にして「自分が作ったような感じがしない」「なにかが降りてきて、これができた」という言い方をします。
恋愛もまた、その人の「自分」という感覚を、大きく変えてしまいます。
恋をしたとき、多くの人が「自分が変わってしまった」と感じます。
誰かに愛されたとき、自分の存在が世界から「発見された」という感覚が生まれます。
恋人や愛する人は、一人の個人でありながら、その人の向こうに広がる世界への「扉」のような意味を持っているのです。

生みの苦しみを超えて、愛の苦悩を超えて、「自分以外のものと自分が結び付き、広い世界の方へと自分がひらかれていく」ような出来事が、「愛と創造の幸福」なのかもしれません。
単に「天から降り落ちてきた愛」だけでは、私たちの幸福には、決定的に足りないものがあるのだと思います。

(2019年9月)

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石井ゆかり
いしいゆかり

ライター。星占いの記事やエッセイなどを執筆。「12星座シリーズ」(WAVE出版)は120万部を超えるベストセラーに。「愛する人に。」(幻冬舎コミックス)、「夢を読む」(白泉社)等、著書多数。累計発行部数は520万部を超える。

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